書くこと
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「作家の執筆時間について調べてみた件」

kazuma(管理人)
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作家の執筆時間を調べてみようと思ったきっかけ──週末に書く時間がない!

こんにちは、もの書きのkazuma(@kazumawords)です。今回は作家の執筆時間についての話をしようと思う。

ものを書くときに必要なものって何だろう。愛用のペンと書き慣れた机、静かな部屋においしいコーヒーとサンドイッチ。

人それぞれに執筆に求めるものってあるんだろうけれど、書き手の誰もが必要な根本的な要素がある、それが時間だ。

どれだけ優れたアイデアが頭のなかにあって、それを実現する方法さえ分かっていても、Enter(実行)キーを押す時間がないなら、小説をタイプして完成させることはできない。

もの書きになりたかったら、最初にすることは、執筆時間を確保することだ。

一日数時間もの執筆時間をいかに日々の生活から捻出できるか、ということが問題になってくる。

僕は最近ちょっとこのことに頭を悩ませていて――というのも、休日を友人と過ごす日が多くなり、週末の時間を創作に充てるのが難しくなってきていた。

元々、誰かと一緒に過ごす時間なんてまったく勘定に入れてなくて、自分ひとりで生きて行けたらそれでいいやと思っていた人間なので――そんなときに、過去の作家たちはいったいどうやって執筆時間を取っていたのだろう、と思って手に取った本がある。

それが『天才たちの日課 クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々』という本だ。

タイトルは自己啓発本っぽいのだけど、内容は作家や芸術家達がどのように創作の時間を取って生活していたかを取り上げていて、非常に興味をそそられる。

魅力的な作家たちのタイムマネジメントに学ぶ

まずは目次だけでも見て欲しい、僕の好きな作家のトルーマン・カポーティやこの間、取り上げたW・B・イェイツ、ジョイスにカフカ、ヘミングウェイ、ジョージ・オーウェル、フィッツジェラルドまでいる(サリンジャーがいないのが惜しいところだけど、たぶん彼は私生活のインタビューには答えないだろう)。

また作家だけじゃなくて、哲学者のキルケゴールや画家のゴッホ、「ピーナッツ(スヌーピー)」の漫画家シュルツや精神科医のフロイトやユング、ピアニストのグレン・グールドやラフマニノフ、作曲家のベートーヴェン、モーツァルトに、変わり種では発明家のニコラ・テスラがいる。

いわゆる古今東西の芸術家の生態を箇条書きにして集めた本で、創作に当たってどうやって執筆時間や製作時間を取っていたかが載っている。

このなかから参考になりそうな作家の例を4つ取り上げて紹介してみよう。

①トルーマン・カポーティの場合

この本のなかで最初に読んだのはトルーマン・カポーティの箇所だ。

僕がこの本を買ったそもそもの理由も、カポーティにまつわる情報を蒐集しようとしていた頃で、ただ目次にカポーティの項目がある、という理由だけで買った。

自分の好きな作家がどんな風に執筆していたか、たとえ一頁でも書いてあったら、知りたくならないだろうか。

カポーティはベッドやソファの上に原稿を持ち込んで、横たわって書く癖があった。

彼は自分のことを「完全な水平作家」と言っていて、煙草と飲み物がすぐ手に届くようなところにないと仕事にならない、と話している。

カポーティは昼間に4時間書いて、午後になるにつれて飲み物はコーヒーからミントティー、シェリー酒、マティーニと変えていったようだ。

書いた原稿は日が暮れてから、もしくは翌朝に見直してもういちど手書き原稿を作り、そのあとタイプライターで仕上げていったらしい。

ちなみにこのタイプライターもベッドのなかで膝の上に載せて打っていたそうだ。

この本のなかには書いていないけど、タイプするときは一分間に百語は打てると豪語していた。

カポーティの執筆方法を見てみると、何とも優雅でこれぞ作家生活、という感じがする。4時間というのが絶妙なところで、書き手によって集中できる執筆時間は異なるけれど、この本を読んでいくとせいぜい3~5時間くらいに落ち着いている。それ以上になってくると、本人自体に異様な集中力があったり、何らかの特殊な習慣を自らに課していることが多い。

僕はカポーティのまねをして、何も予定のない休日に4時間ほど書いてみたけれど、これより短いと原稿に深く入り込むことはできないし、これより長いと原稿の進みが遅くなっていくように感じた。小説を書くにはちょうどいい塩梅の時間なのだ。

4時間といっても、べつにこの間にたゆまずタイピングし続けたり、常にペンを走らせ続けるかというとそうではなくて、とりあえず机の前に座って目の前の小説について思いを巡らせながら、想像のなかで見えた小説のなかの景色や、聞こえてきた人物の台詞を、その都度書き付けていくという具合でいい。

この4時間前後の執筆時間をいつも取れれば理想だけれど、問題はそんな余裕のある生活は平日には難しいっていうことだ。

カポーティはそれだけで暮らしていけるほどの文才があったから、こういう生活を送れるけれども、僕みたいな底辺のもの書きが毎日行うにはちょっと無理な相談である。

なので余裕のある休日にはこのカポーティの方法を使うとして、次の問題は平日にどのように創作するかが鍵になってくる。

②フランツ・カフカの場合

平日に労働していた有名な作家にフランツ・カフカがいる。

日本でも人気の高い作家で、後ろ向きな発言をけっこう残していて、人間味を感じることからその生活や人となりに親近感を覚えることもあるかもしれない。

カフカは1908年から保険会社で働くようになり午前八時頃から午後三時頃まで働いていたようだ。

現代の日本で言うと短時間労働になるのかもしれないが、それでもカフカにとって職場は憂鬱なもので、こんなことを友人に向かって漏らしている。

「時間は足らず、体力は限られ、職場はぞっとするほど不快で、アパートはうるさい。快適でまともな暮らしが望めないなら、うまくごまかす技でも駆使して、なんとか切り抜けるしかない」

「天才たちの日課 クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々」メイソン・カリー著 金原瑞人・石田文子訳 フィルムアート社 2014刊 単行本 p.131より引用

専業作家でもないかぎり、勤め先のあるもの書きや兼業作家はだいたいみんなこの辺の感想に落ち着いてくるのではないだろうか。

ここでカフカの執筆スケジュールをちょっと覗いてみよう。

八時から二時か二時半まで協会事務所。そのあと三時か三時半まで昼食。それからベッドに入って七時半まで寝る。七時半から十分間、窓を開けて裸で運動。そのあと一時間散歩。一人で行くか、ブロート(友人のマックス・ブロート)と一緒のこともあれば、ほかの友だちといっしょのときもある。それから家族と一緒に夕食。十時半になると(じっさいは十一時半になる場合もあるが)、机の前に座って書きはじめる。そのときの体力と気分と運に応じて、一時か二時か三時まで書き続ける。(※一部、括弧内省略)

「天才たちの日課 クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々」メイソン・カリー著 金原瑞人・石田文子訳 フィルムアート社 2014刊 単行本 p.131-132より引用

どうだろう、わりとこういうところは日本的勤勉さというか、規則正しい生活を送っているのではないだろうか(睡眠以外は)。

ただカフカは無理をして執筆に臨んだのではないかと思わなくもない。本人は不眠症に苦しんでいたようだし、家族が寝静まるのを待ってからでないと執筆ができなかった。

カフカの言葉にもあるように、二足のわらじを履いて暮らす兼業もの書きにとって、万全な状態で書けることの方が稀であることは理解しておいた方がよいかもしれない。

カフカにとって幸いだったのは労働時間が少し短いところで働くことができたということで、このことによってわずかながら執筆に充てる時間が生まれているとみることもできる。

僕は幸か不幸か、持病があって長く働くことはできなかったので、ほぼ自動的に短時間の在宅ライターの仕事に落ち着いた。

でも裏を返せば、工夫次第で執筆時間に充てることもできるので、ものを書くという面では恵まれた方かもしれない。

③ジョージ・オーウェルの場合

オーウェルといえば『1984年』という予言的なディストピア小説を書いたイギリスの作家で、各地を飛び回って書いたルポルタージュやスペイン内戦などにも関わったことで知られているけれど、そんなオーウェルも若い頃は売れない作家時代があった。

1934年の時点ではオーウェルは駆け出しの作家で、初めての本を出版できたものの、出版だけでは生計を維持することができないという「若い新進作家にありがちな苦境」に立たされていた。

しばらく分の悪い教師の仕事を務めていたが、そのために書くための時間をほとんど確保できずに文壇の隅に追いやられていた。

そこでおばであったネリーが紹介したのがロンドンの古本屋でのアルバイトだった。

<ブックラバーズ・コーナー>という名の古本屋は、三十一歳で独身だったオーウェルにとって理想的な職場だった。午前七時に起きて、出勤し、八時四十五分に店を開ける。それから一時間店にいれば、そのあとは午後二時まで自由時間。二時に店に戻って、六時半まで仕事。これで午前中から午後にかけて、四時間半近い執筆の時間を確保できた。しかもその時間帯は、頭脳がもっとも冴えているときだ。その執筆時間が終わったあとは、古本屋での長い午後を、あくびをしながらやり過ごし、夜の自由時間を待つ。夜は近所をぶらついたり、遅い時間には、新しく買った小さなガスコンロで料理したりする。

「天才たちの日課 クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々」メイソン・カリー著 金原瑞人・石田文子訳 フィルムアート社 2014刊 単行本 p.301-302より引用

これは確かにいい条件のアルバイトじゃないかと思うので、おばのネリーが相当なナイスプレーであることは言うまでもない。

カフカと共通するのはやっぱり長時間の労働はもの書きには向かないんじゃないかということ。

たまにサラリーマンでかつ創作もまったく止めないというひとがいるが、たぶん超人じゃないかと思って見ている。僕にはとても真似できそうにない。

さらっと書かれているが、オーウェルの執筆時間も4時間半らしいので、やはりこのくらいの執筆時間がプロとしても妥当なラインなのかなと。

④W・B・イェイツの場合

最後にご紹介するのがイギリスの詩人、W・B・イェイツ。イェイツは以前、芥川の翻訳でもご紹介した通り、神秘的な魅力に満ちた作品を生み出している作家だ。

そんなイェイツは意外にも遅筆であったようで、彼自身もそれを自覚していた。

「私は書くのがとても遅い。満足のいくものは、一日にせいぜい五、六行で、それ以上書けたためしがないし、八十行以上の叙情詩を書くには、数ヶ月掛かってしまう」

「天才たちの日課 クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々」メイソン・カリー著 金原瑞人・石田文子訳 フィルムアート社 2014刊 単行本 p.174-175より引用

しかし、イェイツはたとえ気分が乗らなくても毎日二時間は執筆するようにしていた。

ひとつは規則正しいスケジュールを作って集中力を維持しようとしていた理由があり、もうひとつは、自身が遅筆であることを自覚していたからだ。

「少しでも変わったことがあると、私の決して堅固とはいえない仕事の習慣はくずれてしまう」

「天才たちの日課 クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々」メイソン・カリー著 金原瑞人・石田文子訳 フィルムアート社 2014刊 単行本 p.174より引用

のちにイェイツはノーベル文学賞を受賞し、母国のアイルランドを代表する伝説的な詩人となっていく。

そんな偉大な作家も、書くことに苦しんだり、何とか時間をやりくりして創作活動に勤しんでいたと考えると、ちょっと勇気を貰えないだろうか。

イェイツは詩だけでは生計が立てられなかったので、文芸批評なども書いていた。こちらは収入を得るための仕事として書き飛ばしていたみたい。

幸いイェーツは詩以外の書きもの、たとえば収入を得るために書いていた文芸批評などでは、それほど慎重ではなかった。「人は生きるためにおのれの一部を悪魔に与えなければならない」イェーツはそう言っている。「私は批評文を与える」

「天才たちの日課 クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々」メイソン・カリー著 金原瑞人・石田文子訳 フィルムアート社 2014刊 単行本 p.175より引用

この箇所は個人的にめちゃくちゃ好きだ。イェイツの発言が痛快で、恰好良すぎるなと。

イェイツの言う通り、ライフワークになる創作と、収入を得るための手段は切り分けて考えた方がよさそうだ。これくらい分けて考えている方が清々しい。

あわせて読みたい
「若き日の芥川龍之介が訳した、W・B・イェイツ『春の心臓』を読む。」
「若き日の芥川龍之介が訳した、W・B・イェイツ『春の心臓』を読む。」

まとめ もの書きが仕事をしながら書いていくには?

他にも紹介したい作家はいたのですが、もの書きの執筆時間を考えるときに役立ちそうなケースに絞って紹介しました。今回の記事を僕なりにまとめてみると、

もの書きの執筆時間まとめ

作家の一日の執筆時間は平均して約4時間前後

・専業作家はそれだけで暮らして行けるが、現実的には兼業が主流


・兼業作家の場合、勤務時間を短くすることで執筆時間を捻出


・平日に時間を確保出来ない場合でも、毎日2時間書く習慣でカバー


・創作が一生の仕事だと考える場合は、日中の仕事は割り切って行う

になると思います。僕も執筆時間についてはかなり悩んでいたのですが、これらの作家のケースを丁寧に見ていくことで解決しました(とくに最後のイェイツがダメ押しのゴールで、背中を押してくれた)。

ぜひ皆さんも、お気に入りの作家の執筆方法を探してみてくださいね。きっと発見があると思います。

今回ご紹介した本はこちらです。ぜひ創作に役立ててみてください。

それでは、また。

2023/03/19 20:00

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