【2023年10月版】最近の文芸誌を取り寄せてみた件
「群像」「MONKEY」「スピン」の三つの文芸誌を取り寄せてみました
こんにちは、もの書きのkazumaです。先日に「51対49の小説」という短編を書き上げて、monogatary.comに作品をアップロードしました。お楽しみいただけましたでしょうか。
作品を書き上げたあと、週末に時間ができたので、最近の文芸誌をいくつか取り寄せてみることにしました。
文芸誌というと、五大文芸誌の「新潮」「文藝」「すばる」「群像」「文學界」などが思い浮かびますが、他にも海外文学専門の文芸誌があったり、期間限定で発売されているものがあったりします。
今回は、僕が週末に取り寄せた三つの文芸誌(「群像」「MONKEY」「スピン」)について、購入した理由と簡単な感想を述べてみようかなと思います。
ひとはなぜ文芸誌を買うのか?
文芸誌というと、何やら堅いイメージがあって、純文学系のコアなファン以外は読まないんじゃないの、と思われがちですが、実際に内容を読むと、むしろコアなファン以外のひとが手に取ると面白いところがあったりします。
案外、本が好きという方でも文芸誌までは手を伸ばしたことがない、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
公募組は、応募した文学賞などの予選通過作の発表があるときに、その号だけ買ってみることがあったりしますね。
僕もそうやって文芸誌に手を伸ばしましたが、とくに純文系の文芸誌は国内の有名作家が書いた文章が揃い踏みで、まさに文芸の最前線といえます。
『群像(2023年11月号)』を購入したわけ
僕が今回、購入した本は「群像」の十一月号で、何で手に取ったかというと、僕が好きな作家の中村文則さんのインタビューが掲載されていたからです。
中村文則さんは、2023年10月3日に新刊となる『列』を発売されており、その刊行記念特集として、中村さん本人へのインタビューと書評が同時掲載されていました。
こうした作家へのインタビューがいち早く掲載されるのが文芸誌で、たとえば、普段から読んでいる作家さんが、今回のように巻頭で特集を組まれていることが数多くあります。
出版時のインタビューでは、作品をどのような考えで作ったか、どんな考えが背景にあるのかということが、インタビュアーの質問から浮かび上がってくるので、とくに小説を読むだけではなく、普段から創作をするひとにとっても参考になるものです。
文芸誌に掲載される作品は、新人賞受賞作や著名な作品などの場合、一挙に掲載されることがありますが、基本的にはいくつもの現役作家の文章を連載で少しずつ、という場合が多かったりします。小説だけではなく、エッセイや書評もあります。
たとえば、今回の「群像」では、高橋源一郎さんの『オオカミの』が掲載されていました。
『不思議の国のアリス』などの有名な海外の童話をモチーフに語られているのですが、高橋さんが語りはじめると、どんな題材でも高橋さんの言葉になってしまう。
プロの作家の文章は、何を語っても、やっぱり語り方でぜんぶ持って行かれてしまうんだなと。読んでいてそういう凄みがありました。
もとは中村文則さんのインタビューを目当てに買ったのですが、掲載されているのは国内の第一線で活躍する作家さんの文章なので、これは、という作品に思いがけず出会えるのが文芸誌の面白いところです。
たまに次に何の本を読んでいいのか分からない、という期間があるのですが、そういうときに気になる文芸誌をまとめて買ってみると、読んでみたい作品や作家さんを見つけることができるかもしれません。
海外文学好きには『MONKEY』がおすすめ
次にご紹介するのが、柴田元幸さんが責任編集をされている『MONKEY』です。とくに海外文学が好きな方なら、一度は聞いたことのある文芸誌ではないでしょうか。
この文芸誌はちょっと特殊で、主に翻訳家の柴田元幸さんが訳した海外文学の作品などが中心に取り上げられ、海外の作家に焦点を当てて作られているものです。
翻訳文学専門の文芸誌といえば『MONKEY』。海外文学好きにとってはたまらない文芸誌になっているのではないでしょうか。
過去には「サリンジャー」を特集にした号があったり、今回取り寄せた最新号(vol.30)では「トルーマン・カポーティ」が取り上げられていたりしました。僕はどちらも好きな作家で学生の頃から読んできたので、こうした特集には興味がありました。
『MONKEY』の特集では、他にも『短編小説の作り方』というものがあったりして、もの書きに嬉しいトピックが組まれることがあります。
柴田元幸さんと関係の深い、村上春樹さんの訳文や対談も掲載されることが多くあり、小説に対する考えを深めつつ、海外文学の短編作品などを読みながら楽しむことができます。
カラーのイラストや著者・作品の写真などもあり、どこを切り取ってもお洒落な文芸誌です。ずっと手元に置いて置きたくなるような文芸誌で、あまり小説は読まないんだけど……というひとにも。
文芸と関わりのある海外の漫画家へのインタビューや、独特な詩が掲載されることもあり、文学のエッセンスをあっちからも、こっちからもとバイキング形式で楽しめる雑誌に仕上がっています。
文芸誌って何も文章だけではないよと、見せ方までこだわって作られた、まさしく「翻訳文学の雑誌」です。
旬な作家の作品から、装丁デザイナーさんの裏話まで読める『スピン』
三つ目に手に取ったのは『スピン』。これを手に取ったのも、実は中村さん繋がりで、中村文則さんの第一回の小説連載が『スピン』に掲載されていたからでした。
群像の十一月号で、中村さんが次に書く作品を「古神道」に関わるもの、自然信仰が面白い、と発言されている箇所があり、もしかして「スピン」に連載されているものが、「次の作品」にあたるのかなと思いながら読んでいます。
「群像」は講談社、「スピン」は河出書房新社から発刊されていますが、作家さんによっては、色んな媒体で作品を発表されているケースが多くあります。
ひとりの作家さんの最新情報を追いかけていくと、実はべつの媒体で発言していたことと繋がっていた、というパターンもあったりするので、気になる作家さんの名前が載っている文芸誌を見つけたら、一度手を伸ばしてみると面白い発見があったりします。
「スピン」は河出書房新社から発売されている期間限定の季刊誌で、年四回・全十六号で発刊されると記載されています。河出書房新社の創業140周年のカウントダウン企画で制作されている文芸誌です。
連載小説・詩・エッセイ・本の話・書評など、ジャンルに分け隔てなく旬の作家さんの文章が集められている印象です。
表紙には町田康さんの目を引くことばからはじまって、小説では中村文則さんの新連載が巻頭にありました。
いままで読んだことのなかった作家さんの作品では、佐原ひかりさんの『リデルハウスの子どもたち』を面白く読みました。
連載の途中から読んでも、作品の出だしに惹かれてしまって、ここから小説がはじまっているものと勘違いしたくらいです。
あとで目次を見ると、「第四回」とあり、前回の設定などをとくに知らなかったにもかかわらず、主人公のエレインと、天才少年のタキとの関係性が面白く読めました。
途中から読んでも面白いというのが、いい小説の条件のひとつだと僕は思っているので、作品が惹き込まれる語り方になっているのだなと感じました。
詩では最果タヒさんの作品が掲載されており、ノスタルジーを乗り越えようとする『夜の病』という詩に惹かれました。
また作品の作り手だけではなくて、本の出版や装丁に関わる裏話も掲載されているところが『スピン』の面白いところです。
芥川賞を受賞された市川沙央さんの『ハンチバック』の装丁に関わったデザイナーの大久保明子さんの話が掲載されています。
僕も『ハンチバック』の単行本を書店で手に取ったのですが、装丁カバーにまつわる裏話を『スピン』で知りました。
僕らのように一般の読者に届くまでには、こうした装丁のデザイナーさんの葛藤や試行錯誤があったのだな、と興味深く読みました。
まとめ 「何を読めばいいのか」「何を書いたらいいのか」分からないときこそ『文芸誌』を
今回は僕が購入した文芸誌のご紹介でしたが、他にも魅力的な文芸誌はたくさんあります。
「好きな作家さんの名前が載っているから」、「いまはあまり読みたい本が見つからなくて」、「国内の作家さんの最新事情を知りたい」など、文芸誌を手に取る入口はたくさんあります。
Amazonなどのネット書店で発売日に取り寄せることも可能になっているので、いままで文芸誌を読まなかったひとも手に取ってみてはいかがでしょうか。
文芸誌をきっかけに新たに読みたい作品に出会えたり、掲載された文章に刺激を受けて創作意欲が湧くかもしれません。
「何を読んだらいいのか」、「何を書いたらいいのか」、分からなくなっているひとに、こうした文芸誌をおすすめします。
(了)
2023/10/10
kazuma