「ポメラ日記14日目(週末ポメラ、図書館で見つけた芥川選の怪異・幻想文学)」
週末、ポメラ持参で郊外の図書館へ行く
・先週末は知り合いのところに身を寄せていた。普段は行かない市の図書館に来ている。ここはどうも、最近出来た新設の図書館のようで、珍しい本が沢山置いてあった。市営の図書館で、珍しい本を見かけたりすることは少ないんだけど(中央の図書館くらいかな)、ここはけっこう品揃えがよくて驚いた。郊外ならでは、という感じがする。
文学コーナーの書架を回っていたら、芥川龍之介が選書した怪異・幻想文学を扱った本を見つけた。巻の後ろの方には、芥川が若い頃に訳したという英米文学の翻訳作品があって、滞在時間中に一作だけ読んだ。読んだのはウィリアム・バトラー・イェイツの作品だった。編者には翻訳者の柴田元幸さんも加わっていて、解説が添えられていた。
(今回、図書館で見つけた芥川龍之介選による海外文学本。翻訳者は柴田さんや岸本佐知子さんなど翻訳の第一線で活躍する豪華な訳者陣。著者の澤西さんは芥川を専門とする研究者であり、作家でもある。見るからに面白そうな本だ。)
図書館で偶然見つけた一冊、芥川はなぜイェイツの短編を二十四の頃に訳したのか?
この本の中に載っていたある一編は、芥川龍之介が二十四歳の頃に訳した、という触れ込みの文章で、芥川が文学に手を染めはじめたのは翻訳であったことはあまり知られていない、という主旨のことが書かれてあった。
芥川の全集や作品を読むと、海外の作品について当時から尋常ではない知識があったことが分かるんだけれど、翻訳から文学の道に入ったということは、いままで知らなかった。編者によって、この訳に芥川が腐心したことが窺える、というコメントが残されていた。
若い頃に芥川がそこまで入れ込んだ作品であるというなら何かしらの「わけ」があるんじゃないかと思って僕は書架からその本を引き抜いた。
芥川の遺書(「或旧友へ送る手記」という久米正雄に宛てたもの)のなかに、「エトナのエンペドクレス」について論じ合った二十年前を覚えているだろうか、と久米正雄に語っている箇所がある。
エンペドクレスというのは火山の中に身を投げて自殺したという逸話のある哲学者で、わざわざ火口に身を投げたのは自らを神に近づけようとするため(自らを神と同一視)するためだったんじゃないか、という説がある。
芥川はこの遺書のなかで、そういうものをめっきり否定するんだけれど、久米と語り合った若い頃には「みづから神としたい」願望を信じていたのだと明かしているところがある。
芥川が訳した『春の心臓』を読んだときに思い浮かべたのはなぜか彼の書いた遺書だった。
この芥川が訳したイェイツの『春の心臓』を読んだときに、なぜか僕の中で浮かび上がってくるのは、この遺書で久米に向かって芥川が語っていたことだった。
ほんとに十五分だけの流し読みだったので、何とも言えないけれど。僕の勘では、どうもこのイェイツの短編は芥川にとってかなり重要なものであるらしい気がするのだ。
『春の心臓』の中には魔術師らしき老人が出てくる。この老人も神(不死の霊)と等しくなろうとした人物だ。しかしこの老人は志半ばに死んでしまう。世話をした少年は臨終の日に立ち会う。
老人が探していていたものはきっと心持ち次第で人生のなかに見つかったはずだ、お師匠様(=魔術師の老人)は不死のもののなかにそれを探さなければよかったのだ、と嘆く。
文学や小説に携わるひとは、若い頃に読んだものにかなり影響を受けるのではないかと思う。
僕だってもの書きの端くれだけど、学生時代に読んだ本の影響というものは、あとから読みはじめたものに比べるとかなり強い(カポーティとかサリンジャーとか)。
まだ戦時中だった大正から昭和期に掛けて、わざわざ外国の書物を翻訳して手元に残していたと考えると、そこには並々ならぬものがあったんじゃないか。
他にはルイス・キャロルの作品を訳したものがこの単行本には載っていた。
僕の住んでいる街の外(市外の)図書館なので、本を借りられなかったのが惜しいところだ。とりあえず写真に収めておいて、あとでこの本を手に入れようと思った。
外でポメラを打つことについて、喫茶代は場所代として割り切るか
・これまで色んなところで文章をタイプしたが、一番打ちやすかったのは図書館の休憩コーナーだった。
河川敷や公園はやはりテーブルがなかったり、天候に左右されたり、色々と環境の問題があったが、図書館の休憩コーナーなら無料で使えるし、飲食が可能なところもある。席さえ確保できれば、平日・休日問わず使える。
市ごとによって整備されている具合が違うので、近隣にあればベストな選択肢かなと思う。残念ながら僕の街にはあまりめぼしいところは見つからなかったが。
(今回のブログ記事は図書館のテラス席で打った。風通りがよくて気持ちよかった)
これまで、公園・河川敷・図書館・街中のベンチなどの無料ポメラスポットを探索したけれど、かえって有料の喫茶店の環境のよさがよく分かった。
しっかりとしたテーブルがあり、軽食が取れ、空調は利いていて天候には左右されない。ポメラが汚れることもまずないだろう。珈琲代というよりかは、場所代として五、六百円くらいは払う価値があるのかなと思ったりもした。
とにかく僕は気兼ねなく通える場所を見つけたいと思う。
2022/09/06 9:29
kazuma
もの書きグッズ紹介コーナー:「芥川龍之介選 英米怪異・幻想譚」
今回の記事で紹介したのはこちらの本。「芥川龍之介 英米怪異・幻想譚」。芥川好きで海外文学が好みなら絶対にハマりそうな予感がする。
僕も欲しいんだけどまだ手に入れていない。幻想文学を扱っているところも気に入った。芥川の訳した「春の心臓」は美しかった。イェイツの作品にも興味が湧いた。